台風が迫っている中、昨日初めて新たに建て変わった歌舞伎座へ行ってきた。
十月大歌舞伎。
十七世 中村勘三郎さんの二十七回忌と
十八世 中村勘三郎さんの三回忌の併せ追善公演。
なので出演陣も豪華絢爛。
2人の息子、
勘九郎と
七之助はもちろんのこと、
片岡仁左衛門さん、
中村扇雀さん、
中村橋之助さん、
中村梅玉さん、
坂田藤十郎さん、
中村獅童さん、
坂東玉三郎さんなどが大集結!
今回観に行ったのは昼の部なので、演目は「野崎村」と踊りが「近江のお兼」「三社祭」の2つ、そしてメインが「伊勢音頭恋寝刃」(いせおんどこいのねたば)〜通称「油屋物語」だった。
新しくなった歌舞伎座は外観と雰囲気は前の歌舞伎座の良いところを残したまま、上手いことリノベーションした良い成功例だと思う。
東京メトロの東銀座駅を降りて改札を出ると、もうそこは歌舞伎の世界が広がっている。
改札を出るとすぐ大提灯が下がる基で、お弁当や記念品などのグッズを売っているお店がずらっと並んで人で溢れ返ってる。
ここで素敵な勘九郎と七之助の来年のカレンダーがあったのでゲット!
前は歌舞伎座の中にあったこれらの売店がエキナカに移ったこともたぶんあって、歌舞伎座の中は前よりすごくスッキリしていた。
あんなにゴミゴミして歩きにくくてイライラしたのが嘘のように気持ち良く場内を歩けるようになってた。
エスカレータも上手く配置されていて、1階から3階までの移動もあちこちからできるようになっていたし、トイレも綺麗で気持ち良い。
渋谷駅などのように新しくなって失敗した例もある中で、この歌舞伎座は改装の成功例ですね。
さて今日観た演目についてちょっとだけ説明。
まず「野崎村」。
ヒロインのお光が七之助。貧しい田舎の娘。
幼い頃から兄のように慕ってきた久松(中村扇雀)が唯一愛おしい男性。
この久松は地元を離れて奉公先で真面目に働いていたのだが、あらぬ嫌疑をかけられて奉公先をクビになって地元へ戻ってきた。
お光の父親の久作はさっそくお光と久松を夫婦にさせようと祝言の準備を始める。
ところが久松は奉公先で何とあろう事か店主の娘、お染と恋仲になっていたのだった。
久松が好きで好きでたまらなかったお光は久松との結婚話に浮かれまくっていたのだが、実は久松は奉公先でお染にすでに手を出していて、16歳のお染は身ごもっていたのだった。
自分の幸せに浮かれていたお光だったが、このことを知って身を引く覚悟をする。
重篤な病の母親とか、丁稚先の女将とかも出てきてめんどくさくなるのだが、簡単にいうと自分を犠牲にして出家するお光が可哀想なはなし。
こんなことが歌舞伎初心者でもよく解るのは、イヤホンガイドを借りるから。
借りるというのは、借りる時に1,700円払うのだが、帰りに返すと1,000円返してくれるので実質の使用料は700円ということ。
で、これを借りると演目を見ながら良いタイミングで、どういうことなのかを解説してくれるんです。
これは初心者には是非おすすめのアイテム。
これがあれば歌舞伎の演目も普通の演劇のように解りやすく楽しめる。
で、次は踊りが2演目。
「近江のお兼」は力自慢の女子のお話し。
暴れ馬を取り押さえるほどの馬鹿力が自慢の女子の踊りが、河で麻の反物を洗っている踊りにつながっていく。
最後は暴れ馬に乗りながら反物を洗うという荒技で終了。
次のは獅童と橋之助でやる踊り。
この踊り演目は結構意味が深い。
漁師の兄弟の二人。網を投げたり船を漕いだり、漁師として働いていたのだが、ある日善と悪の雲が降りてきて、この二人を善と悪に分ちてしまう。
今でいえば2人ユニットで結構ハードにシンクロして踊る感じ。
獅童&橋之助のユニットと言うのがなかなか貴重な「三社祭」という名作。
今回の席は
3階席の1列目。
かなり舞台を見下ろす感じではあるが、真正面から全体を見渡せてなかなか快適!
そして今日のメインは「伊勢音頭恋寝刃」(いせおんどこいのねたば)〜通称
「油屋物語」だった。
この話しは
面白かった!
しかも演じるのは主役の貢を勘九郎がやり、ヒロインお紺が七之助、ストーリーのキーパーソンとなる仲居の万野役は玉三郎!
さらに話しを盛り上げていく脇役も、お鹿は橋之助、料理人の喜助を
仁左衛門がやるという豪華な配役!
簡単に物語ると、舞台は伊勢神宮のある伊勢の遊郭。
旅行などと言うのが今の時代のようにお気軽にできるものではなかった江戸時代には、お伊勢参りは死ぬまでに一度はやりたいだれもが夢焦がれるイベントだったそう。
なのでその夢を叶えたい人たちで伊勢の街はものすごい人がやってくる一大観光地であった。そういった観光地には当然のことながらエロイ歓楽街もあって、伊勢の遊郭は江戸時代には吉原と並ぶほどの大遊郭街だったらしい。
その中の「油屋」という店がこの話しの舞台となっている。
このように大勢の人が旅してやって来る伊勢神宮には、今の旅行代理店のような機能があって、宿泊先やアクティビティやオプショナルツアーの案内をする役目の人たちがいた。
この話しの主人公「福岡 貢」はそんな仕事をしている人。
貢は元武士で、元主君筋の万次郎(梅玉)から、行方不明になっている家宝の名刀「青江下坂」の探索の命を受けていた。
名刀なので刀そのものももちろんなのだが、血統書のような刀の目録の書類も一緒に揃っていなければならないわけ。
刀は無事取り戻した貢。
この名刀を油屋の料理人「喜助」に預ける。
この遊郭油屋には貢の恋人「お紺」がいる。
そして腹黒い仲居の「万野」。
見つけた刀「青江下坂」を万次郎に渡すために油屋へしばらく身を置いておきたい貢に、仲居の万野は「金を使わないなら出て行ってくれ」という。
「馴染みなんだしそんなつれないこというな」と貢はいうが「だったら誰か女子を買ってくれ。何も金を使わないのに店にいられても困る」と万野はいう。
「お紺という恋人がいるのに、他の女を買えない」という貢と万野の主張し合いがあって、結局貢がそんなにいうならまあ誰でもいいから持ってきてくれ。別にエロイことは何もしないけど、おなごを買えば良いのだろう、と折れてしまう。
このことから仲居の万野の策略にハマってしまう貢。
あてがわれたおなごは貢のことが大好きな「お鹿」という女郎。
お鹿は貢が好きなので今まで10両も貢に金を貸してきた。
二人になってお鹿からそんな話しを聞く貢。だが身に覚えはない。
実は万野が貢の名をかたってお鹿から10両カッパイでいたのだった。
こんなやり取りをしている隣の部屋では藩の転覆を狙う一味の3人が、客を装って名刀「青江下坂」を何とか手に入れようとしている。
刀は手に入れていないが目録はこの一味が持っている。
この事情を知ったお紺は一芝居打つことにする。
そんなお紺の決心を知らない貢は、万野の考えたトラップにはまって行き、これら一同の前で、恋人がいるのに違う女を買った上、その女からの借金をしらばっくれようとしている最悪男のレッテルを貼られて怒り沸騰。
お紺は芝居で縁切りする。「私がいながら同じ遊郭で違う女を買った上、その女から金を無心していたのにしらばくれて、もうお前とは何の関係もない!」
このお紺の演技に一味3人もすっかり騙されて、目録をお紺に渡してしまう。
お紺が、手に入れた目録を愛する貢に届けようとしたその時には、、、
名刀は実は妖刀。
貢の怒りは妖刀に伝わって、万野をはじめ悪人3人や周りにいた人々を容赦なく斬りつけて殺しまくっていたのだった。
だいたいこんな感じ。
いまでいうと「アンフェア」とかに近いようなアクションと世話物が入り交じったストーリーで、歌舞伎なのでそこに様式美が加わった素晴らしい作品。
三味線と浄瑠璃がバックの音楽なのだが、それが素晴らしいハーモニーで圧倒された。
この作品は、本当に伊勢の遊郭「油屋」で起きた事件が基になっているそう。
その事件は実際にはお紺と恋人の貢が飲んでいたところ、3人の新規客がお紺を指名したので遊郭のママが貢の席からいったん離して、その新規客の席にお紺を付けたことに貢が切れて遊郭の中で殺しまくった「油屋事件」というのが本当にあったらしい。
ただの痴話話だったのだが。
江戸時代の歌舞伎には今のような芸術的な側面の他に、ニュースとか報道の様な役割があったそうで、この伊勢で起きた事件を江戸の人に伝えるため、ただの殺人事件ではなくて人情を絡めた脚本を書いて舞台で演じるものに仕上げたらしい。
伊勢で事件が起きてから3日後に江戸で上演されたというから驚く。
こういうことも知ると歌舞伎も今どきでも楽しめるエンタメです。
そして歌舞伎座の後、日本橋へ移動。
前から一度伺いたかった福島物産館「Midette」へ行き、副館長の櫻田さんにお会いしてきました。