酷暑の中、電車に乗って渋谷パルコへ行く。
楽しみにしていたパルコ劇場で公演中の
「其礼成心中」を観るため。
三谷幸喜が人形劇の文楽に初挑戦。
あまりにも面白いので再演となった今回、やっと観に行くことができた。
近松門左衛門が作って大ヒットした江戸時代の実際の「曾根崎心中」。
その舞台となった「天神の森」はその後、心中ブームとともにカップルの自殺のメッカになってしまった(事実)。
その天神の森で饅頭屋を営んでいた半兵衛とおかつの夫婦がこの物語の主人公。
曾根崎心中、その後の物語。
文楽は何度か観に行ったが、今回はそれとはまた別の期待が大きい。
歌舞伎で言えば亡くなった勘三郎さんがチャレンジして来た新しい歌舞伎のような文楽。
そんな人形浄瑠璃なのだという期待を胸に観に行った。
その期待はまったくそのとおりで、期待以上の大笑い、大感激の現代文楽が楽しめたのだった。
国立劇場で観るようなテロップを追いかけて見ないと何を言っているのか皆目分からないような浄瑠璃ではなく、三味線に乗って詠われる台詞は「パトロール」とか「カミングアウト」とかのカタカナ言葉も混じっての現代言葉。
笑いの要素も散りばめられた解りやすい台詞が三味線の音色に乗って語られていく。
簡単にあらすじを紹介するとこんな風。
ネタバレなので読まない方が良いと思う方は飛ばしていただいてください。
ただし文楽を実際に観る上では、あらすじが解っているのも悪くはないかもと個人的には思う。
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「曾根崎心中」が大ヒットとなって、事実カップルの心中が増えてしまった大阪。
心中のメッカとなった曾根崎心中の舞台、天神の森で饅頭屋を営む半兵衛とおかつの夫婦は迷惑を被っていた。
自殺の名所の饅頭屋が繁盛するはずはなく、困った半兵衛は自殺カップルがこれ以上増えないようにパトロールを強化していた。
そこへまさに曽根崎心中に感化されて、ふたり一緒に死ぬしかないと思い詰めてやって来た六助とおせん。
油問屋に働く六助とその問屋の一人娘おせんが両想いになったが、おせんは親から結婚をするよう勧められた他の男がおり、このままでは一緒になれないとふたりで死を選んだのだった。
死にたいこの二人を嫁のおかつと諭すうちに、半兵衛はおかつの説得力とカリスマパワーに気付き、新規一転、自殺志願者の相談にのる饅頭屋というビジネスモデルに切り替えることに、屋号も「曾根崎饅頭」に変えることにする。
これが大当たりして曾根崎饅頭は大ヒット!
半兵衛とおかつは大金持ちになっていく。
時しばらくして、近松門左衛門が新たな芝居の脚本を書くと、これが今まで以上の大ヒットに。
今までと同じ世話物ながら、舞台は網島。
これをきっかけに心中のブームは網島へ移ってしまう。
しかも半兵衛のビジネスモデルをまるっきりパクった、網島のかき揚げ丼が大ブームになっていく。
曾根崎での心中はブームが終って、いまでは心中するなら網島。
しかも心中するカップルはその前にかき揚げ丼を食べて相談に乗ってもらうというのが心中カップルのトレンドになってしまった。
カップルの心中で儲けに儲けて来た半兵衛は一気に没落してしまう。
半兵衛とおかつには器量の宜しくない一人娘のおふくがいる。
網島に心中のホットポイントが移っていくのを心配した饅頭屋の半兵衛は、娘のおふくにかき揚げやの偵察を命じる。
おふくはかき揚げ屋を偵察し続けているうちにかき揚げやの二代目のダンナと恋仲になってしまう。
一方で栄華を極めた饅頭屋が没落した半兵衛は、恨みの矛先を近松門左衛門に向ける。
「あいつがへんな心中物を書くから周りが迷惑する。もう一度、曾根崎の心中物を書いてもらって曾根崎を自殺のメッカにしてもらわなくてはいけない」
という思いで近松門左衛門に直談判しにいく。
しかしもともと、この半兵衛の理屈がオカシイので、近松門左衛門には相手にしてもらえない。
しかし食い下がる半兵衛に近松門左衛門は「私が面白いと思うような心中事件があれば、脚本にしないこともないかもしれない」というようなことを言う。
かき揚げやの政吉と結ばれたいおふく。
意を決して親の半兵衛とおかつに告白する。
最初は怒り狂っていた半兵衛だったが、娘の幸せを考えるにつれ、店の将来を考えるにつれ、娘が好きな人と一緒になって良いのではないかと気持ちが変わっていく。
そして、いつの間にか近松門左衛門に言われた言葉に縛られていくかのようにネタになる心中を自分たち(半兵衛とおかつ)でやったらどうか、という気持ちになっていく。
おかつはすごい女。
だんなの半兵衛が「死ぬことにしたからお前も死ね」と言ったら「あい解りました」と言って一緒に河に飛び込んでしまう。
結局死に切れなかった半兵衛とおかつの前に、昔「死んではいけない」と諭した六助とおせんが現れる。
半兵衛とおかつの説得通りに人生我慢して生きて来たら、言われた通りに二人結ばれたという。
お礼に伺ったので金を受け取ってくれと言う。
その金があれば半兵衛とおかつもまたやり直せるなー。
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という脚本、ストーリーの面白さももちろんのことながら、
文楽という人形浄瑠璃の面白さもまた別にある。
三谷脚本が面白いのだろうはもちろんだが、古典の文楽では絶対あり得ない人形の動きとかこれを観ないときっと観ることできない。
唱と三味線もあり得ない、けど解りやすい、面白いストーリー。
演出があって古典を突破したのか、人形浄瑠璃の可能性を考えて文楽が新境地を開拓したのか、とにかく必見の作品です。
文楽の上出来な、黒子の人形使いがいつの間にか見えなくなって、人形の仕草に感情が鷲掴みにされていくのはもちろんなのだが、現代の話しとして違和感なく人形たちに感情移入できる最高の文楽の作品になっていたのだった。
シンプルに
「面白い!」という感想。
当時の文楽ってこういう楽しみ方だったのかもと思う。